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魔がさした。考えなしに、舌打ちみたいに口が開いた

「久田さんて…住んでた人?」

就寝後の暗い部屋のなか、差し込む外灯の薄ら明かりで課長の背中が確認出来る
アパートの横を通るスクーターの年季の入ったモーター音が近くを行き過ぎて小さくなっていった

聞いたのに反応がない。寝てなければ…まずったらしい
みかんの水槽のポンプ音が妙にボコボコと響き渡っている。単調ないつもの夜の音

しばらく背中を見ていたが、目線を外し背中を向けるように寝返りをうった
このまま聞かなかったことにすれば。それで納得しよう

「どこで見たんだか…」小声だが反応があった

「あれはクダさん て読むんだ」

課長の声が穏やかだった。背中を向けたまま、耳だけ欹てる。じっと
小さな部屋の空気が一瞬にして精密に固まった気がした

「結婚したってさ。子供が二人居るって」

穏やかに便乗するようにまた口が開く。いつもならそれ以上は聞かないのに、なのに

「忘れられないから?」

短い問いにはいろんな意味と興味と、知りたいことが凝縮していた
正直、ものすごく言って緊張した。こんなの…

ちょっとした間の後、どこか悠長な口調で課長が口を開いた

「そういうことにしとくか」

なにかはぐらかされた感じ。でもって一体どんな返事なら自分的に良かったんだろう?
冗談めいていてそれとなくこれ以上は駄目なんだって、なんとなく分かった

それと今此処に代わって居る俺が、その人の分に敵ってないことも。

越えられない居候(だけ)の壁。毛布を被って思考を止めた